食を守り、農業・農村を未来へつなげるための第一歩。季刊「新・田舎人」発行にかける想い/全国水土里ネット(全国土地改良事業団体連合会)様
2024.07.23
全国各地の「土地改良事業」を効率的に行うために設置された協同組織・全国水土里(みどり)ネット様では、「新・田舎人」という冊子を年4回発行。2024年7月時点で第120号を迎えます。
春夏秋冬、四季の訪れに合わせて発行される季刊「新・田舎人」。
毎号美しい日本の風景とともに、「農業や農村について関心を持ってもらうための企画」をお届けしています。
・ 土地改良事業の支援をメインとしている団体が、なぜ季刊を発行しているのか?
・ WEB媒体ではなく、なぜ紙での発行なのか?
・ 広報することによって、どんなつながりが生まれるのか?
「新・田舎人」の冊子制作を当社がサポートしていく上で、発行者と読者との結びつきを更に深めていくために、全国水土里ネット様(以下、敬称略)へ「発行にかける想い」や「紙媒体での広報が果たす役割」についてお話をお伺いしました。
目次
- Chapter1:紙媒体での発行について
「自然と目に触れる」のは、紙媒体ならではの大きな魅力。手に取るきっかけが、やがて土地改良事業を知る第一歩に。
- Chapter2:企画・取材の進行について
「新・田舎人」は、みんなでつくる冊子。紙媒体を通して繋がる輪、広がる情報。
- Chapter3:紙面づくりについて
「知ること」から繋がる輪。目指すは「1人1人がインフルエンサー」。 - Chapter4:未来に向けて
「おいしいね」が、いつまでも続く日本であるように。
Chapter1:紙媒体での発行について
「自然と目に触れる」のは、紙媒体ならではの大きな魅力。
手に取るきっかけが、やがて土地改良事業を知る第一歩に。
――まずは、全国水土里ネット様の活動内容を簡単に教えてください。
全国水土里ネット:私たちは、土地改良事業の調査・研究や土地改良区、市町村などへ技術支援・指導を行っています。また、47都道府県には、「土地改良事業団体連合会」があります。さらに、全国に4,200の農家からなる組織「土地改良区」があります。これらの団体の愛称が「水土里ネット」です。
全国水土里ネット:土地改良というと少し難しい印象を受けると思うのですが、国の農業の基盤を支える重要な事業なんです。農業は、土地を耕すことがスタートではありません。農地の区画を整理したり、農地まで水を運んでくる施設を作ったり。または、施設の維持管理をする。その上で、初めて土地を耕して作物を作ることができるんです。
全国水土里ネット:これらの農地の整備や農業用水利施設の維持管理を行っているのが「土地改良区」です。「土地改良区」は全国の40万km(地球約10周分)に及ぶ水路等のネットワークによって農村の健全な水循環を形成し、農地を潤すことにより安全で安心な「食」と「農」の基盤づくりを担っています。これが国民共有の財産である美しい農村の基礎ともなっています。
――確かに、農業というイメージでまず思い浮かぶのは「田んぼや畑を耕す」という印象ですが、区画や排水施設といったインフラ整備がそもそも必要なのですね。
全国水土里ネット:国民みなさんの生活にも関わるとても大事な事業なのですが、普段から「土地改良」という言葉が馴染みないものですので、なかなか知ってもらえないし、浸透しない。私たちにとってはそこがジレンマでした。まずは知ってもらうことの第一歩として、農業・農村への関心を広げることを目的とした季刊「新・田舎人」を発行することとなりました。
――近年ではWEBやSNSなど発信のツールも様々にあるかと思うのですが、その中で紙媒体をお選びいただいた理由をぜひ、お聞かせください。
全国水土里ネット:紙媒体には、自然と目に触れるという強みがあると感じています。そもそも、「土地改良」という言葉はネット検索をする人が少ない。つまり、その言葉自体を知らないと考えられます。ですので、日常のどこかのタイミングで目に触れ、興味を持ってもらうためにも、紙媒体は必要だなと思いました。
――なるほど、確かに「土地改良」という言葉は、普段の生活においては調べないですね…。
全国水土里ネット:知名度がなかったり、日常で馴染みのない言葉なのであれば、まず「目に留まる」ということが大事なのかなと思います。「紙とWEBのどちらか」ではなくて、両方のメディアをうまく活用していきたいです。
――広報活動において紙媒体とWEBの両方を使う上で、紙媒体にしか掲載していないコンテンツはありますか?
全国水土里ネット:47都道府県の職員が企画した案から厳選した情報を掲載しています。つまり、選りすぐりの企画しか掲載していないので、それだけで価値あるものになっています。また、冊子は販売という形をとっていますので、WEBに掲載されない情報もあり、「プレミア感」があります。
――自分が掲載されていると、確かに記念として欲しくなりますね。
全国水土里ネット:「関係者に配布したいから、数十部購入させてください!」といったお声もあるんですよ。本当に、「新・田舎人」は記念に残してもらえる冊子になっているなと感じています。
――A4というサイズ感には何かこだわりがあったのでしょうか。
全国水土里ネット:手ごろな厚さで、パラパラっと見てもらえるようなシーンを想定しています。応接室や待合所などに置いていただくこともあり、座ってゆっくり見る人も多いんです。農業や農村に興味がある方はもちろんですが、心にゆとりを持ちたい方、安らぎを求めている方にも手に取っていただきたい。ちょっとの時間だけでも読んでもらえるように、を心がけていますね。
――まずは「手に取ってもらう」。そして、興味のあるページだけでも読んでもらう。その一歩が、事業を知ることのきっかけに結びついているのですね。
▲A4サイズで広げてゆっくり読むことができる。冊子という形に残るからこそ特別感もあり、掲載した方からは複数ご購入いただくことも。
Chapter2:企画・取材の進行について
「新・田舎人」は、みんなでつくる冊子。
紙媒体を通して繋がる輪、広がる情報。
――紙媒体の制作体制について、水土里ネット様の方で取材いただくページと、プロの編集チームが企画するページがあると伺いました。すみ分けはどのようにされているのでしょうか。
全国水土里ネット:表紙の写真・コピーのご提案はプロにお任せしています。毎号何案かご提案いただきますが、非常に満足です。「農業・農村整備がわかる、手にとりやすい冊子」というコンセプトを理解していただけています。
全国水土里ネット:農業の世界って、カラフルな写真が多いんですね。野菜や果物が入っていると、特にカラフルなビジュアルになります。ですので、なるべく題字のトーンを下げるなどして、写真が「映える」ようにしてもらって。ビジュアルで、まずは「手に取りたい」と思ってもらえることを大切にしています。
全国水土里ネット:逆に、中面の取材は全国の水土里ネットの職員が中心となって行っています。元々はプロにお願いしていた部分なのですが、数年前から水土里ネット等による取材に切り替えました。
――手間が増えると思うのですが、水土里ネットの皆様の中で不満などは出なかったのでしょうか。
全国水土里ネット:切り替え当初は、やはり不満の声というかとまどいの声はありました(笑)。ですが、水土里ネットの職員に取材に行ってもらうことで、臨場感が出たと感じています。
全国水土里ネット:また、取材に行った内容が「紙媒体」というモノに変わる楽しさに気付いてもらえました。自分たちの担当している地域が掲載され、それを読んだ人から「載ってたね!」と反応がある。続けていくうちに、水土里ネットの職員から積極的に企画案を送ってもらえるようになりました。
――広報活動の輪が広がったということですね。紙媒体を通して全国の水土里ネットの皆さんが繋がれる、というのもまた素敵なお話と感じました。
全国水土里ネット:「新・田舎人」を発刊する以前は、土地改良というインフラ目線で事業を考えていました。ですが、自分たちで取材に行くことによって、「私たちの県って、どんな人がどんな取り組みをしているんだろう」と、水土里ネットの職員が自主的に調べるようになりました。事業を進めるためのPRの視点を、水土里ネットのみんなが考えるようになったのかな、と思います。
全国水土里ネット:今では、水土里ネットの職員から「色んな人に配るから冊子を送ってほしい!」と言われることも多くなりました(笑)。職員自身が関わり、そしてプロの手も加わり、紙媒体という「カタチ」になる喜びを知る。そして、たくさんの人に広め、地域の取り組みを知ってもらう――みんなで作り上げていく冊子なのだな、と感じています。
――人気の企画や反響のあった記事はありますか?
全国水土里ネット:「いま味わうべき、ふるさとの極み」コーナーはとても良いですね。農家の方が育てたものがどういう商品になり、消費者の元へ届いているのかが分かるページ。見ていて楽しくなります。さらに、オンラインショップへの誘導があるのもポイント。実は、新・田舎人の冒頭インタビューに出演していただいた著名人の方が、この企画ページを見てオンラインショップ購入してくれた…なんてこともありました。
――それはとても嬉しいですね!
全国水土里ネット:ちなみに、私は117号に掲載していた田子産にんにくの商品を購入しました(笑)。
▲人気の「いま味わうべき、ふるさとの極み」コーナー。
――そうなのですね(笑)。そもそも、青森県の特産品として田子産にんにくというものがあることを知りませんでした。…ポテトチップスにラーメン、それにコーラ!様々に商品展開されていておもしろいです。
全国水土里ネット:この企画がきっかけで青森県に旅行にも行きました。旅先で誌面に掲載されていた商品を実際に見つけて嬉しかったですね。
――確かに、こういった情報を事前に知っていたら旅行先の候補にもなりますし、旅先で商品を探してしまうかも。農業は地域との結びつきが非常に濃いので、観光など別の事業にも繋がっている、というのがおもしろいと感じました。
Chapter3:紙面づくりについて
「知ること」から繋がる輪。
目指すは「1人1人がインフルエンサー」。
――その他のページについても質問させてください。「新・田舎人」では、誌面のあらゆる箇所でたくさんの人が登場していると感じます。著名人へのインタビューや、水土里ネットの方によるコーナー「疏水さんぽ」など。誌面制作において、「人の声」に重きをおかれているのでしょうか?また、「人の声」で情報を伝えていくことには、どのような力があると考えられますか?
全国水土里ネット:私たちの事業を知ってもらうためには、1人1人がインフルエンサーとなり、「発信をしてもらうこと」が必要だなと思っています。
著名人へのインタビューにおいては、例えばYouTubeで食や農に関するコンテンツを配信されている方、食育の大切さを伝える方など、それぞれの想いで芸能活動に取り組まれています。その方々にまずは私たちの業界を知ってもらう。皆さん影響力のある方々ですので、ゆくゆくは国民の方々に広く私たちの事業を知ってもらえると考えています。
――とにかく、1人でも多くの人に「知ってもらう」ことを重視されているのですね。
全国水土里ネット:著名人の方々へインタビューをすると、みなさん真摯に我々の仕事に耳を傾けてくれるのがとても嬉しい。とある著名人の方は、「水土里ネット」のロゴマークをご自身のスマートフォンで撮影していました。「私の住んでいる近くにも土地改良区があるかも?」とも言っていただけました。
全国水土里ネット:一般の方々からも、冊子を発刊する上で、「土地改良っていう事業があったんだ」とか、「農業にはこういう仕事も必要なんだ」といった声をいただくこともあります。日常で「農業」について考えることがあまりなくても、冊子を読んでもらうことで繋がるきっかけができていると感じますね。
――地方出身で都会に出てきた方も、こういった冊子を見て出身地が取り上げられていると嬉しいし、食や農業について身近に感じると思います。水土里ネットの皆様においては、何か人気のコーナーはありますか?
全国水土里ネット:「疏水さんぽ」が人気です。会議や講演会等で「疏水さんぽ」に登場した職員に会うと、「この前出てたよね」なんて話になるんです。
――「疏水」という切り口もおもしろいです。
全国水土里ネット:ちなみに、日本は昔から米作りが盛んなのですが、米を作るにはまずは用水の整備が必要。ですので、世界的にも有名な疏水が多いんですよ。
▲水土里ネット職員から人気の「疏水さんぽ」。毎号各地域の職員が疏水の周りを独自の視点で紹介する。
――普段「疏水」について考えたりしないのですが、こうやって観光MAP形式になっていると、自分の住んでいる地域が紹介されていたらちょっと巡ってみたくなります。
全国水土里ネット:MAP形式にするのは、水土里ネット職員からの案なんです。「新・田舎人」では、農業者や生産者はもちろんですが、水路などインフラを支える人々や活動、そして職員自身にもスポットを当てています。皆さんの普段の生活では見えない事業かもしれませんが、「いかにすごい仕事をしているのか」をしっかりと伝えていきたいな、と。
全国水土里ネット:時には、地域で行われる草取りや植栽活動を取り上げることもあります。土地改良事業によって、豊かな土地となり、おいしい食材が育っていく。そして、日本の農業が続いていくということを伝えていきたい。新・田舎人は、私たちが誇る日本各地の農業のことがそれぞれの目線で描かれていて、本当にいい冊子なんです。
――「私たちが誇る農業」という言葉がとても素敵ですね。全国水土里ネット様が農業に携わる方をリスペクトしていることがよく分かります。「新・田舎人」が1人でも多くの人に読んでもらえるよう、私たちも微力ながらお手伝いできればと思います。
Chapter4:未来に向けて
「おいしいね」が、いつまでも続く日本であるように。
―― 一般の人に「土地改良」を知ってもらうために、他にどういった活動に取り組まれていますか?
全国水土里ネット:全国の水土里ネットでは地域の小学生に向けて紙芝居や農作業体験を企画するなど、子ども向けの活動に力を入れています。仕事の大切さを知ってほしいな、と。
全国水土里ネット:それから、子ども絵画展。今年で25回目になります。小学生以下対象で全国に募集をかけ、去年は3,000を超える作品が集まりました。上位に選ばれた作品は上野の東京都美術館に飾られるんですよ。
――東京都美術館!子どもたちはもちろん、ご家族にとっても夢がある機会ですね。
全国水土里ネット:そうだと思います。お父さんやお母さんだけでなく、親戚一同そろって見に来てくれたご家族もいらっしゃいます。
――子どもたちが農業・農村に興味を持ち、絵画を描く。そしてそれが美術館に飾られたとなると、今度は大人たちにも関心をもってもらう機会に繋がるのですね。
全国水土里ネット:農業や農村を見つめる大切な機会になればいいなと思っています。「おじいちゃんのミニトマトは世界一!」という題材の絵が入賞し、上野の美術館で飾られた時には、絵とそっくりのおじいちゃんが喜んで見に来てくれたことがありました。
――心が温まるエピソード!農業をしているおじいちゃんも、そのご家族も、すてきな思い出になりそうですね。
▲絵画展受賞作品は、新・田舎人にも掲載。
――農業や農村の「未来」はどうなっていくべきか、目指すゴール等あればぜひお聞かせください。
全国水土里ネット:食料の生産基地として、農業と農村がきちんと継続していくこと。そのためには、農業のインフラである水路や土地改良区、農業者の体制をきちんと整える必要があります。
全国水土里ネット:ですが、インフラの整備は本当にお金がかかってしまうんですよね。「なぜ、ここに税金が使われるのか」を、国民の皆さまが正しく理解し、土地改良事業の「応援団」になっていただくことをまずは目指したいです。
全国水土里ネット:土地改良事業が、日常において「おいしい」と感じる瞬間に繋がっているのだということを、広げていきたいですね。
――安心して食べることができる日常。今は当たり前に感じていることが無くなるなんて、確かに想像できません。一般の私たち、もしくは企業として、何かお手伝いできることはありますか?
全国水土里ネット:1つは、新・田舎人を広めていただくこと。ご自身が購読していただくもよし、または応接室や待合室など、冊子が置けるところに置いていただく。1人でも多くの方の手にわたることで、農業に興味を持ってもらうきっかけづくりができればと思います。
■季刊「新・田舎人」購読申し込みフォーム
全国水土里ネット:企業様であれば、絵画展などに協賛いただいたりしています。企業様に絵画を選んでもらい、「企業等協賛賞」を決めてもらうことも。社会貢献活動の1つとしてご活用いただけます。
全国水土里ネット:そして、もしお子様のいるご家庭であれば絵画展、大人の方であれば写真コンテストにぜひ参加してみてください。
■未来へつなごう!ふるさとの水土里(みどり)子ども絵画展2024
https://www.inakajin.or.jp/works/pr/kids-art
応募期間:2024年6月1日(土)から2024年9月6日(金)まで
■第4回水が伝える豊かな農村空間 疏水・ため池のある風景写真コンテスト
https://www.inakajin.or.jp/works/pr/photo-contest
応募期間:2024年6月1日(土)から2024年12月13日(金)まで
――参加することだけでも意義があるのですね。
全国水土里ネット:土地改良は国の大きな事業ですが、市民権を得ているかと言えばまだまだ十分ではありません。まずは、様々な活動を通して繋がることが大事かなと。そこから、農業を最前線で支えてきた「土地改良区」という組織を知ってもらえれば幸いです。
――最後に、当社へ何かご意見等ありましたらお聞かせください。
全国水土里ネット:高速オフセットさんは様々な業界のデザイン・印刷を手掛けていると思います。一般的な目線で見たときに、どうやったら農業や農村を売り出せるのか?というアドバイスを今までいただいて、それがこの形になっていると思います。ですが、水土里ネットをまだまだたくさんの人に知ってもらいたい。
これからも共同作業するとともに、引き続きアドバイスをお願いしたいと思います。
――すてきなお話をありがとうございました!
新・田舎人120号は7月25日に発刊!
120号より表紙・内容ともに大きくリニューアル。
ぜひ、お手に取って読んでみてください。
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