「“新聞ができるまで”前編」では、編集から用紙搬入部分までの紹介しました。
後編ではいよいよ印刷~搬出まで詳しく説明していきます。
【印刷】堺市堺区:高速オフセット堺工場
◆輪転機は高さ20メートル、紙は下から上へ進む
印刷の仕組みを、32ページ(うちカラー16ページ)の朝刊を印刷する場合で、解説します。
下のイラストは、輪転機1セット全体の図解です。高さは20メートルあり、堺工場の1階から4階まで吹き抜けです。この輪転機が、堺工場には6セットあります。
巻取紙は、イラストの一番下、1階部分にある4カ所の取り付け場所に1本ずつ計4本装着します。4枚の長い紙はそれぞれ、下から上へ、1階から4階方向へと進みます。
最終的には、イラスト右端の、2階にある「折り機」で、紙を畳んで完成品となります。
◆スピードは、陸上100メートル世界記録のボルトと同じ
輪転機の印刷速度(紙が送られていくスピード)は時速38㌔。原付バイクより速く、陸上100㍍世界記録を持つウサイン・ボルトが走るのと同じくらいのスピードです。
2階から3階にかけ、4色の円筒形のシリンダー(胴)が4本ずつ4層重なっていますね。この部分は、高く塔のようになっているため「タワー」と呼んでいます。
イラストで、左側のタワー2基がカラーページ用、右側の1基がモノクロページ用です。
タワー内を通過する紙に接している胴が「ブランケット胴」で、そのブランケット胴に接している外側の胴が「版胴」です。刷版は、この「版胴」を1周するように巻いて装着します(写真)。
版胴の幅は、巻取紙の幅と同じで「新聞4ページ分の幅」になっています。32ページの新聞を作る場合、4ページ分に対応する刷版4枚を、横に並べて装着します。
カラーのタワーでは、紙が下から通過する間に、ブラック(墨)、シアン(藍)、マゼンタ(紅)、イエロー(黄)の色順で連続印刷することになりますから、墨版、藍版、紅版、黄版の4種類の刷版を、下から順に装着します。
タワーの中の詳しい仕組みは次の通りです。
◆版と紙が直接触れない「オフセット印刷」方式
刷版の説明のところで「文字はそのまま読める」と説明しました。「文字が読める版にインキを付け、紙に印刷したら、文字が反転してしまい、読めなくなるのでは」と思った方がいらっしゃったら、鋭い指摘です。
実は、刷版と紙は直接接触せず、間に、別の胴が介在しています。これが、「オフセット印刷」という印刷方式です。英語の「オフ」に、接触していない、という意味があります。
輪転機全体のイラストの「色別の胴」の部分を拡大したのが、下のイラストです。これをもとに説明します。
刷版が巻かれた「版胴」は、回転とともに、版に付いたインキを、隣の別の胴である「ブランケット胴」の表面に転写します。この時点で、「ブランケット胴」に転写された文字は、反転しています。そして「ブランケット胴」が回転しながら紙に接触し、インキを紙に転写します。これで文字は元に戻ります。
実際には、「ブランケット胴」が紙に接して、版の役目を果たしているのです。
このオフセット印刷方式は、高速印刷に適していて、現代の印刷方式の主流となっています。当社の社名にも入っています。
カラータワーには、「紙の通り道」の両側に胴があるため、表裏4ページずつ計8ページ分を一気に印刷します。
モノクロのタワーでは、ブラック(墨)の胴しか使わないため、タワーを上下2分割して使用し、紙は、下と横の2方向から入って、横と上の2方向に出ていきます。
この写真は、輪転機1セット全体のコントロールをしている場所です。
巻取紙は「新聞4ページ分の幅」と説明しましたね。つまり、カラーのタワー2基で、4ページ×表裏×2基=16ページが完成。一方、モノクロ印刷部分では、巻取紙が2方向から入って出ていきますので、4ページ×表裏×2方向=16ページが完成。これで32ページ分の印刷がそろいます。
でも実際の新聞は、4ページ幅ではなく2ページ幅の紙が8枚重なって32ページですよね。この時点では、まだ幅が広いままですし、まだ長く連なった4枚のままです。
完成品にするためには、幅を細くして、重ねて、1部ごとにカットする必要があります。
◆4ページ幅を、半分の2ページ幅にカット
タワーを通過してインキが付いた紙は、4階部分にまで縦方向に上がっていった後、今度は、横方向の動きに変わります。輪転機全体のイラストを参照ください。
横方向の動きの途中で、4ページ幅の紙を、ナイフで半分の2ページ幅に切っています。
写真を見てください。紙が流れる方向が、奥側は斜め上に、左側は真横に、と2方向に分かれています。写真の中央部分にナイフがあり、紙の真ん中がナイフを通過することで、カットしているのです。
この段階で、それまで4枚だった紙の流れは2倍の8枚に増えます。
◆紙の方向を徐々に変え、重ねる順番を誘導
2ページ幅に細くなった8枚の紙のうち4枚は真っすぐ、最終工程の「折り機」へ向かいますが、残る4枚は、設定したページ順通りで紙を重ねることができるよう、ターンバーと呼ばれるバーで何度か方向転換したり、折り返されたりして(写真)、進行方向を変えていきます。
8枚の紙が、ページ数通りに正しい順番で重なるように誘導していく工程です。
◆紙8枚が重なって「三角版」で縦半分に
8枚の紙が最終的にページ数通りに一まとまりに重ねられると、4階部分から今度は下に下りてきて、「三角板」(写真)を通過し、下に引っ張られることで、両端から二つ折りに畳まれます。
この「三角板」の下に、完成品への最終加工をする「折り機」があります。
◆「折り機」で1部ごとにカット
この「折り機」は、輪転機全体のイラストの一番右側にある部分です。
「折り機」に入ってきた段階では、新聞はまだ切れ目なく連なったままの状態です。
直前の「三角板」で、完成品と同じ1ページ幅に畳まれた8枚の紙は、「折り機」のローラー(写真中央)で縦の折り目をしっかり付けられた後、写真手前の「鋸(のこぎり)胴」と、写真では見えない奥側の「折胴」との間を通過する間に、1部ごとにカットされ、上下半分に折り畳まれます。これでようやく新聞が完成品となります。
1部ごとにカットする際に大変重要なのが、新聞の下部に並んでいる数カ所の穴です。「折胴」に付いているニードルピンと呼ばれる針が新聞に刺さって新聞をピーンと張り、「鋸胴」のカッターでカットしつつ同時に上下半分に畳む仕組みだからです。
新聞の下に並んでいる穴は、この針が刺さった跡なのです。
◆1時間で朝刊7万5千部を完成品に
「折り機」で完成品となった新聞は、2階にある「折り機」出口から出てきます。
上下の真ん中を折り畳んだ状態で、重なりながら出てきます。
輪転機1セットで、32ページの朝刊だと、1秒あたり約20部、1時間で約7万5000部を完成できます。
「折り機」は輪転機1セットに1台ある場合と、2台ある場合があり、2台ある輪転機ならば、ページ数が少ない16㌻の夕刊印刷で2台とも使って、1時間あたり約15万部の完成が可能です。
この「折り機」を2台稼働させる方式を「両出し」、1台稼働させる方式を「片出し」と言っています。
◆ベルトコンベヤーで2階から1階へ
「折り機」出口から出てきた新聞は、人の目でチェックする「検紙」を経て、ベルトコンベヤーに載って、発送のため次々と1階へと運ばれます。
◆スタッカーで部数を数える
ここまで新聞は1部ずつ、ばらばらの状態でしたが、「スタッカー」と呼ぶ、縦長の機械に入って数を数え、設定された部数ごとに、自動的に積み重ねられていきます。
◆配送先ごとに梱包し、あて先を付ける
数を数えた後は、配送先の新聞販売店ごとの部数データに合わせて、販売店の名前や配送先を記した紙を付け、透明フィルム包装をして、結束バンドを付けます。
出来上がった梱包は、輸送する方面ごとに仕分けされ、トラックが横付けしているトラックヤードのゲートへと進んでいきます。
◆堺工場1階のトラックヤードから搬出
堺工場1階のトラックヤードには、新聞の輸送先方面ごとに1番から14番までのゲート番号が割り振られています。トラックは指定のゲートに車を横付けして、積み込み、販売店や配送拠点へと出発します。
こうして、技術と機械と多くの人によって、読者の皆さんに新聞が届きます。
新聞印刷や輪転機に興味を持っていただけたらうれしいです。
【輪転機での抗菌加工は当社の特許】
最後に、堺工場の輪転機が持つ特許技術をPRさせてください。「抗菌加工」の特許を持っているのです。
抗菌加工は、紙1枚ずつに印刷する平版印刷では可能になっていましたが、高速大量印刷する輪転機で可能にしたのは当社が業界初で、2021年8月に特許を取得しました。
輪転機での印刷では、インキで印刷された後の紙に静電気除去剤を塗布する工程があり、この静電気除去剤に、抗菌剤をまぜて塗布するという技術です。試験を繰り返し、改良を重ねて抗菌製品技術協議会(SIAA)の試験に合格。特許を申請したものです。抗菌加工だけでなく、抗ウイルス加工の認定試験にも合格しています。
安心できる印刷物をお客様に届けたい。これが当社の願いです。
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