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「紙の新聞離れをどうするか?」海外の印刷現場をめぐるCONPT-TOUR2019に参加しました

2020.02.14

日本新聞製作技術懇話会の「CONPT-TOUR2019」に、2000年10月3日から10日間、参加した。
訪問国はポーランド、オーストリア、ドイツ。
それぞれの主要メディアは、日本と同じく「紙の新聞離れをどうするか?」が経営の根幹をなすテーマだった。
(常務取締役管理本部長・氷置恒夫)

ポーランドの印刷現場

ポーランドの印刷現場

ワルシャワのAgora社。
1989年、自主管理労組「連帯」の報道機関として、映画監督のアンジェイ・ワイダ氏らが設立した。主要紙のガセダ・ヴィボルチャ紙(ポーランド語で選挙)は、国内で最も信頼されている日刊紙だが、50万部を超えていた発行部数が10万部に落ち込んでいる。
このため、2014年デジタルサイトを有料化。同時に印刷工場2カ所を閉鎖して1カ所に絞った。
デジタル会員は19万人。長期で堅い収入を確保するため、クレジット決済を値引きするなどしている。

しかし、紙の新聞を無くすつもりはない。
「紙の新聞はコンテンツの質が高い。我々はどんな分野に進むにしろ、そのコンテンツを活かしたビジネスで生きていくのだから、紙の新聞は重要だ」と経営ボードは話す。

もっとも、メディアグループの収益の半分が映画(48の映画館を持っている)というのは、「灰とダイヤモンド」「戦場のピアニスト」のワルシャワらしく、うらやましくもあった。

オーストリアの印刷現場

同国第二の都市・グラーツのStyriaメディアグループを訪問。
ここでも主要紙のクライネが10年間で70%もの読者減となり、デジタルファーストにシフトしていた。

2016年に同国の日刊紙で初めて課金制を導入。
「紙の新聞を考えてストーリーをつくっていたが、記者たちの頭をデジタルに変えさせた」「このやり方が正しいかは分からないが、信じて進んでいる」と社長兼編集長。

オーストリアの印刷現場

ただ、Agora社と異なり、昨年、3000万ユーロ(約36億円)をかけて工場設備を一新した。
Manroland製輪転機2セット、Krauze製CTPなど。

工場のボスに「紙の新聞が先細りなのに、なぜ大金を投資したのか?」と問うと「紙の印刷物は消えないよ」とあっさりしたものだった。

ドイツの印刷現場

ポツダムのMAZ社も、2012年からデジタルを有料にした。よく読まれる地域ニュースを奥に入れて誘導し、1時間は無料だがそれを超えると課金される工夫を施している。

工場は陽光が差し込み、日本の工場よりずっと開放感がある。

音の大きい輪転場とコントロールルームの仕切りが分厚いガラス戸になっていること一つをとっても、さすがに労働者ファーストの伝統を感じた。
経営の多角化として、新聞輸送から配送業への発展の他、各種チケット販売も手がけており、実績が上がっている。

ドイツの印刷現場

視察を終えて

「いずこも同じ秋の夕暮れ」――
印刷会社にとって最も収益性の高い<紙の新聞>がどんどん減り、新聞社はデジタル化に活路を求める。
この構図は日本と全く変わらない。

しかし、日本と異なっていることが二つある。

1つは、ニュースは有料であるという市民の意識が日本より強いこと。
新聞社が最もお金を使っているのは取材・編集部門である。それを原資とすると、最も高く売らねばならない商品はニュースだ。

それなのに、日本は成果物であるニュースをYahooやGoogleなどのサイトに無料で提供するということを、最初にやってしまった。だから、今も市民はネットニュースはタダとの意識が強い。
今から修正できようもないので、日本の課金サイトは、よほど特長があり付加価値がないとビジネスにするのは困難な気がする。

もう1つは、新聞のデリバリーの相違。
日本は宅配制度が歴史的に完璧だった。販売店は、新聞印刷工場から届く新聞に、折込広告を入れて、その手数料で店は経営を支えてきた。

しかし、訪問した新聞社の工場は、自分のところで印刷した日刊紙に、やはり自分のところで印刷した広告を発送過程で折りこみ、あとは届けるだけとなっていた。

また、訪問した3国には広告業界を支配するガリバー代理店はなく、新聞社は街角のデジタルサイネージにもどんどん進出し、クライアントから広告料を得ていた。

日本の新聞の行く末は

日本の紙の新聞はどうなるのだろう。
取材、編集という過程で得られる質の高いコンテンツを活かし、多角的に展開するところに活路を見出す道は、欧州とも変わらないだろう。

ただ、「印刷文化」の再発見のために、私がもっと強調したいのは、脳生理学的なアプローチだ。

生物学者の福岡伸一さんは次のように書いている。

コンピューターやスマホの画面の文字は、止まっているようでいて実はたえず動いている。
電気的な処理でピクセルを高速で明滅させているから、文字や画像はいつも細かく震えているのだ。このサブリミナルな刺激が、脳に不要な緊張を強いているのではないか。だから、落ち着いて読むことができない。
私は紙に印刷された活字の方が安心して読めるし、よく頭に入ってくる

また、大手新聞社が複数の小売業者、マーケティング・コンサル会社と共同し、台所で使うフライパンの販売について行った「広告効果測定調査」で、最近、こんな結果が出ている。

新聞折り込みチラシとインターネット広告を併用した小売店では売上が3倍以上になったが、ネット広告のみの店舗ではほとんど変化がなかった。
チラシのみでも売上が2倍以上になっていた

福岡氏の指摘とこの結果は、関係しているのではないかと私は思う。
私たちは、紙の印刷物をもっと見直し、もっとアピールしてもいいのではないか。

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